強制不妊 断種と堕胎を詠んだハンセン病歌人伊藤保の短歌  - まるまる録

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強制不妊 断種と堕胎を詠んだハンセン病歌人伊藤保の短歌 

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障害者の強制不妊の報道に続いて、ハンセン病患者であった方の体験が話題となっています。

断種「おまえの番だ」 愛楽園強制不妊 もがく男性 羽交い締め 屈辱の手術

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胸が痛む記述ですが、ハンセン病患者歌人の強制不妊を詠んだ短歌があります。

それらの作品を、こちらに再度ご紹介しておこうと思います。

伊藤保短歌集『仰日』(ぎょうじつ)

伊藤保はハンセン病歌人では有名な一人です。
21歳で九州療養所に入所。入所後にアララギに入会して斎藤茂吉の選を受けます。

入所後の妻帯は許されていたので、そこで同じく療養者である妻を得て、家庭を持ちました。

妻の妊娠と堕胎

やがて妻は妊娠しますが、子どもを持つことは許されませんでした。妻は早産で堕胎をします。

病める身を諾ひて神に縋(すが)るわが妻に身ごもる子をおろさせぬ
うつつなき汝は苦しみの声挙げつつやうやく頭を成しし子産みぬ

しかし、生まれた子どは未熟児で、それでなくても生かすすべはありません。

拳を握る子

それでも妻は生まれた子供の世話をします。

苦しみつつ息吸ふ汝の目を開きて生まれし子の掌を開きてやりぬ
これの世に生まれてわずかの息を吸い死にゆく吾子は掌を開きたり

私は、この「掌を開く」の意味がよくわからなかったのですが、生まれたばかりの子どもというのは、拳を握っているものなのだそうです。

ハンセン病市民学会の文章

以下はそれについて答えになると思われる、ハンセン病市民学会の文章です。

私は検証会議の一員として、各施設の胎児標本の検証に立ち合いました。そこで検証したものは、髪は黒々と生え、胎児というより、まさしく新生児、いまにも産声をあげ、お乳をふくませれば力強く吸えるようなりっぱな赤ちゃんが、しっかりとこぶしをにぎりしめたまま、相当数置かれていました。小さなこぶしを開き母親の乳房をまさぐることは許されなかったのです。(ハンセン病市民学会主催シンポジウム(2006年11月12日)「 胎児標本問題から考える検証の必要性 」)

お母さんが世話をして、自ら乳を与えるというところで、子どもは自然と手を開く。言い換えれば、手を開けない子は、お乳が飲めないということなのでしょう。

それで、伊藤の妻は、未熟児で亡くなることはわかっているのですが、これも母親の思いから懸命にそうしたのでしょう。

堕胎を終えてさらなる悲しみ

伊藤は堕胎を終えた妻をいたわりながら連れ帰ります。
妻は妻で目覚めては、寂しい様子で堕胎を終えるのを立って待っていた夫を見て泣くのです。

子をおろしし妻を白衣に包み入れ抱きて梅雨降る廊下を帰る
暗きところに独り虚しく立ちてをりしと息吹き返しし妻は泣きをり

亡くなった子ども

たまゆらは息深く吸ひしみどりごを生くると思ひて抱き上げにき

「子どもが息を深く吸ったので、その一瞬はあるいは生きるかもしれないと思って抱き上げたのだった」という意味です。

伊藤は片足を失って義足でしたが、妻の出産後の胎盤を自ら埋めたようです。

栗の花こぼれ散りくる羊歯の中哀れなる胎盤を抱ききて埋む
吾子を墮ろしし妻のかなしき胎盤を埋めむときて極りて嘗(な)む
羊歯の葉の羽目にひろごりし若株を吾子埋めし土覆ひて植ゑぬ




断種の手術を決める

その後、伊藤は迷った末に、断種の手術を受けることになります。

子をおろしし妻の衰へ目にみつつなほしも吾は断種ためらふ
わが精子つひにいづべき管(くだ)閉ぢき麻醉さめ震ふ體(からだ)ささへて帰る



子どもをおろした妻が目に見えてこうも衰えるものか、それなら妊娠は避けなければならないが、それでも子どもを持てなくなる断種の手術をすることはためらわれるという内容です。

それでも、伊藤は手術を受けます。


「子のわれになし」

柔毛(にこげ)立ちて露のひかれる熟桃(うれもも)をもぎてあたへむ子のわれになし



まるで子どもの頬を思わせるような、柔らかいうぶ毛のような毛におおわれた露のしたたる桃をもいで与えようとする子どもは私にはいない。
そしてこれからも持てないという、悲しみが読まれた歌です。

標本瓶のわが子

さらに伊藤は、亡くなってからの子を

 響(とよも)して地震(なゐ)すぐるとき標本壜に嬰児ら揺るるなかの亡き吾子



と詠んでいますが、これが伊藤の子だったのか、他の子どもだったのかはわかりません。

標本については、上の(ハンセン病市民学会主催シンポジウム(2006年11月12日)「 胎児標本問題から考える検証の必要性 」にも、「 こ の 胎 児 標 本 の 問 題 ほ ど 、 入 所 者 の 人 間 と し て の 尊 厳 を 傷 つ け 続 け て い る も のはないと報告書に特筆されています」との慰霊祭の祭詞に述べられています。

伊藤保の短歌が、記事と共に皆様の理解の助けになりますように。

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